こんばんは。
今年も残すはあと1日となりました。
皆さんにとって今年はどんな1年だったでしょうか?
そして新しい年に向けて、どんな計画をたてられているでしょうか。
今月は野村佳世さんからの記事です。
この和菓子屋さん、私も行ってみたくなりました。
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海外で自国の社会や文化を再認識された経験をお持ちの方も多いと思います。 日本について聞かれることと言えば寿司や世界規模展開の自動車や家電メーカーと思いきや、クラスメートの韓国人からは躊躇なく領土問題と従軍慰安婦問題、スペイン人からは死刑制度といったパブリックではタブーとされているような日本社会の意見を求められたことには驚きでした。
"In my opinion..." 何度言ったことでしょうか。
さて、先日クラスメートの韓国人のたっての依頼を受けて東京のある和菓子会社の社長インタビューに通訳も兼ねて同席しました。商業面積わずか1坪程の小さなお店、商品は羊羹と最中の2種類です。何ゆえ彼はその会社に興味を持ったかと甚だ疑問でしたが、年商3億円だというのです。
社長は小柄で深緑色のベレーがチャーミングな高齢の女性でした。インタビュアーの友人は社長ご自身の生い立ち、経営と製造に現在も現役で携わる姿勢と年商3億円の秘訣、事業を通したネットワークの広がりを尋ねるのですが、彼女からの回答は人間味にあふれる、日本人の感性の豊かさ触れた、プロフェッショナルの精神が響きわたるものでした。いくつかご紹介します。
まず社長は「生き様」として戦後の何もない、食べるものもない、でも生きていかなければならない、そして生きることに今までそれぞれが大切にしていたモラルやルールを投げうってでも生きようとする大人から生きることを学んだと言うのです。 平和ボケの私にはインタビュー早々に衝撃を受けました。本や映画を通して百人百様の戦後と生き様を聞いてきましたが、活字やカメラといったフィルターを通さない直接本人から伺い知る戦後を生き抜いた人々の凄まじさと生き様に圧倒されました。
次に彼女は小さな和菓子屋にも関わらず大きな業績をあげる経営についてお話しされました。 羊羹や最中の小豆の"味" は "お客様へ信頼" であり、信頼を売るという軸として経営されるため、味の品質管理にぶれを生じさせる製造ボリュームや百貨店出店への拡大展開は一切していないとのことです。 そこで先の年商3億円を思い出してください。 同事業同規模の売上平均が年商270万円です。 驚愕の成果です。 昨今の多くの企業に習っていただきたい幾つかのエッセンスがこのコンパクトなお店に凝縮されているように思いました。
三番目にお話しされたことが "縁" でした。 社長は「働くことを経験させてあげたい」と、数名の障がい者を受け入れられ、また国内海外の学生達もそこで職業経験を積むことが後に「多くのことを学びました」と今でも連絡があったりするとのことです。 私が驚愕した「年商3億円」にはある大学教授が大変感銘を受け、社長インタビューをしたことがきっかけとなり書籍出版(*)され、韓国と台湾でそれぞれ翻訳出版されているとのことです。 今回のインタビュアーの友人もその本を読み感動し、学科のプレゼンテーションのテーマにしたことから実現したインタビューでした。 水面に投げた小石によって水紋が広がっていくイメージがまさに縁です。インタビューに同席した機会の縁、友人との縁、そしてJOPAを通して皆様と交流させていただいている縁。
冒頭に戻り、何故彼らがこのような質問をしたのだろうか、真実を知りたいのだろうかというとそう言う訳でもないように思われます。彼らは既にゴールを持っていて、日本人としてこれらに対する罪悪感があるかどうかを確認したいのでしょう。 それに真実なんて私達が持ちうる全ての資料をかき集めても見つけ出すなんてほぼ不可能です。 私はその時持ちうる全ての投げ玉を投げ尽くし、打ち返す議論を展開しましたが、伝わってなかったことと思い悔やまれます。 社会制度や慣習の背景にある日本社会の生い立ちを、“事件”としてではなく、生き様としての時間軸と縁で広がる世界と日本といった空間軸の流れのなかのマイルストーンとして位置づけることや、それぞれの国の歴史と対照することを、対話を重ねることで相互の軸の位置をはかり更には波長を合わせようとするきっかけができたかもしれません。また相互に波長を合わせる努力を惜しまなければやがて信頼が根付き、波長があったときにようやく調和がとれるのだと。 「信頼を売りなさい」、とおっしゃった社長のアドバイスが胸に響きます。
* 「1坪の奇跡」稲垣 篤子著 ダイヤモンド社発行